日本が得意な「モノづくり」。金属部品をしっかりと接合する溶接はモノづくりに不可欠な技術で
ある。モノをくっつけるには接着剤という手もあるけど、強度が必要な場合は溶接が必要だ。溶接でつなげないのは人間関係くらいのものだ。しかし、この国際
溶接技術者コースは、国境を越えて人間をつなげてしまう(かも知れない)くらい強力な研修である。
溶接というと火花を散らしながら鉄板
や鉄筋をくっつけるアーク溶接を思い浮かべる人が多いと思うが、そのイメージだけで溶接を語ってはいけない。技術的にはレーザー溶接、スポット溶接などた
くさんの種類があるが、その用途も多岐に亘る。建物だって、橋だって、自動車だって、飛行機だって、溶接無くしては造れない。大きなモノだけでなく、溶接
技術は腕時計や携帯電話や家庭用ゲーム機など、身に着けたり持ち運んでいるモノにも使われている。
溶接技術の説明はこのくらいにして、研修コースの紹介に移りたい。このコースに参加した研修員は、コース終盤の試験にパスすれば溶接の国際資格
が取得できる。この国際資格は、正式には国際溶接技術者資格制度(以下IIW資格制度)といい、国際溶接学会(IIW)の認証制度に基づくものである。
IIWの技術者資格には、IWE(Engineer)、IWT(Technologist)、IWS(Specialist)、
IWP(Practitioner)など段階別の資格と分野別資格があるが、本コースでは技能者資格であるIWPを除いた3段階別資格と、非破壊検査の国
際資格であるIWIP(International Welding Inspection
Personnel)が取得できる。溶接技術者としての任務と責任が一番広いIWEを取得すれば、ヨーロッパの大学で講義することも可能という信用あるも
のなので、研修員がこの資格を持って途上国に戻れば、基幹人材としての活躍が期待できる。
IIW資格制度では、研修で必要なモジュールの内容と時間が決まっている。資格を取得するためには、学歴要件、実務経験、筆記および面接試験の
他に、このモジュールを必ず消化しなくてはならないため、JICA中部の集団型研修としては長期の約6ヶ月間のコースとなっている。
研
修は日本溶接協会が実施している。資格を付与するのは、IIWから日本で唯一認証機構として認定されているIIW資格日本認証機構(J-ANB)で、事務
局は日本溶接協会内にある。J-ANBも甘い採点で資格を付与したりすると、IIWから認証機構としての認定を取り消されてしまうので、資格審査は厳格に
行われる。過去には資格を取れなかったり、試験に落ちて涙を浮かべた研修員もいた。試験に合格してもらわないと6ヶ月の研修が無駄になってしまうので、先
生達は研修員の苦手分野を個別指導したりする。
研修員達も、最初は単なる勉強としてコース参加しているが、模擬試験や試験対策指導を通じて徐々に真剣さを増していき、この暑い名古屋で毎年8
月から9月にかけては休日返上で受験勉強をする。ようやく暑さが緩む10月、研修員達は、それぞれのレベルで取得した資格の認定証書を受け取る。6ヶ月の
努力が報われる瞬間である。
資格を取った研修員は、帰国後にそれぞれの職場に戻って指導役となったり、技術の指南役となる。こうした指
導役が多くの後輩技術者や技能者を育て、一部の途上国では帰国研修員達が中心となり、その国の溶接協会の設立に寄与している。そして、各国の研修員と溶接
協会が、国境を越えたネットワークとなってつながっていく。